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2007年12月19日 (水)

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某エージェントさんからトライアル案件をいただいた。論文のアブストラクト部分である。この分野の仕事をしている人間であれば、論文のアブストラクトは翻訳者として仕事をする以前から当然のようにそれなりの数を読んだり訳しているだろうし、この分野の勉強としてはもっとも基本的な教材になるものだ。つまり、誰が訳してもそれなりに上手に訳せるに決まっている。というよりも、上手に訳せることを当然のように要求される。アブストラクトで実力を試される(トライアルが課せられる)というのは、だから、結構コワイことでもある。自分で読むだけならサクサク読めるし、それなりの翻訳も出来るけれど、これで実力判定されると思うと、ちょっとコワイ。コンペ案件だったのかどうかは訊かなかったけれど、とにかくこれでOKが出れば、論文の残りの本文部分の依頼が来るのだろうし、ダメなら本文のほうは受注しそびれることになるというわけだ。

論文の定期案件のお仕事をくださっている別のエージェントさんのほうは、アブストラクトだけのときもあるし論文をフルにまるごとというときもある。いずれにせよ、エンドクライアントさんの社内使用ということが判っているし、分野もほぼ固まっているので、私自身の慣れも手伝ってサササと訳すことも多い。でも今回はトライアル案件と言われてにわかに緊張。アブストラクトなので量も少ないため翌日納期だったが、極力ていねいに文章を考えながら訳した。

訳しながら、アブストラクトなんだから誰が訳しても同じハズだよなぁ、と心の中で思う。必要な情報が凝縮されているのだ、どれも落としてはいけない。言葉選びの余裕もないし、翻訳者の個性とか訳語の工夫なんてものも必要ない。それこそ機械的に逐語訳のように言語を置き換えていく作業に近い。こんなんでトライアルになるのかなぁ、と思いながら作業をしていたら、凝縮しているからこそ、ちょっと判りづらい表現が出てきた。その部分を何度か読み返したが、どうもハッキリしない。そこで後ろに控えている本文を読んでみた。当たり前だけれど凝縮されていない、コトこまかに説明していある部分を読んでスッキリ解決。それを踏まえたうえで、アブストラクトの翻訳には若干の言葉を補って訳した。そうしないとどうも伝わらないと思えたのだ。

翌朝トライアル案件を納品し、その日の夕方にトライアル合格のお知らせとフル論文の発注依頼をいただいた。ホっとした。アブストラクトなんて誰が訳しても同じだと思っているし(=誰でも一定レベルで訳せると思っているし)、要はトライアルのチャンスをいただけるかどうかの違いだけで、訳者が誰であっても質はそんなに変わらないと思っている。でも読み手に判りやすく訳すためには情報を補う必要もあって、そのためには依頼箇所だけではなく全部読まなきゃいけないんだよなぁ。ベテランさんは訳す前にきっと論文を全部ちゃんと読むんだろう。私にはまだそこまで余裕がなくて、とにかく依頼箇所に目を走らせるだけで精一杯だ。でも全部読まずに訳していたら今回のトライアルは落ちていたと思う。大事なことだと判ってはいるのだけれど、欠かさず実践する余裕はない。

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