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2007年10月17日 (水)

原文ミス

語学の学習には終わりがないといわれる。外国語に限らず、自国語だってとてつもなく奥が深いし知らない表現もたくさんある。日本語に限って言えば、見たことも無い読めない漢字も山ほどあるし、書けない漢字にいたってはどれくらいあることやら…(=こういうのはアルファベットの国では起こりえない話だろうな。漢字の多さが恨めしい)。それでも自国語では言葉に不自由することはないけれど、外国語の場合は、自分がどれくらい判っているのか、あるいは判っていないのか、それが判断できるようになるまでには多少の時間が掛かる。

まだ英検に合格する前、いつも英語学校のミニテストや模擬試験の点数のおかげで自分が合格までにあとどれくらい掛かりそうなのかは客観的に判断できていたけれど、自分自身の実感として、まだロクに英文を読めていないとか、あるいは、ようやく自分にはある程度の英文読解力が身についてきたな、などということをハッキリと感じられたことがある。それは英字誌の原文ミスがクリアに判ったときだ。1級の勉強を始めて間もない頃は、それこそタイムやエコノミストなんて手にするのも初めて、読むのも初めてで、知らない単語ばかり(=私はもともと非常に英単語力が低いのだ)、構文もレトリックも複雑怪奇で読んでも読んでも判らない。1単語ごとに辞書を引き、簡単な単語にも意外なイディオムがあったりして、1ページどころか1パラグラフ読むだけでも疲労困憊だった。当時はまさか天下のタイムやエコノミストにスペルミスや文法ミスがあるなんて想像したことも無かったので、どう読んでも意味がつながらない文章に突き当たると、それこそ頭を抱え込み、どうして自分には理解できないんだろう、なんで私はこんなに読解力がないんだろう、と思ったものだった。

そのうち、これはどう考えても原文がおかしい、私の解釈のほうが正しい、こりゃ絶対に記事が間違っている!、と確信を持てるようになった。そこに至るまでに数年掛かったわけだが(笑)。ちょうどパソコンが普及し、オンラインでも各種記事が読めるようになっていた。記事を検索して確認すると、本誌(紙媒体の雑誌)で「ここはおかしい」と思ったところがウェブ上ではさりげなく訂正されて正しい表記になっているのである! やっぱり世界のタイムにもエコノミストにも間違いはあるのだ! それが判るようになったときに、ようやく私にも一応の英文読解力が身に付いたんだなぁと現実感を伴ってハッキリと思った。それからしばらくして英検に合格した。学習初心者のうちは、自分がどこが解からないのかが判らない。でもある程度の学習を進めていくうちに、自分に解かるところと解からないところが自覚できるようになってくる。自分自身の実力が判るというのはナニゴトにおいても大事だと思う。自分の今の実力がきちんと見極められないと、目標に到達するために、今自分は何をすべきか、足りないものは何か、ゴールまでにどれくらい掛かるのか、などを理解できない。

今回のQCチェックのお仕事は、原文にもミスがあるという前提で、そのミスも洗い出し、日本語の申請書類では正しい表記にするという作業も含まれている。原文(=英語で書かれた申請書類)は、実際にこれを使って新薬承認の申請をしたのだから、まさか間違いなんてないでしょう、と思っていたのだが、意外にも結構ボロボロ間違いがあるのだ。一覧表では男性と書かれている患者が、文章中では性別が女性になっていたり(=当然この場合は生データに戻って確認する)、日付が4月45日と書かれていたり(…こんなの一目瞭然で有り得ない)、一覧表の中では、1月1日に重篤な有害事象が起き、事象の持続期間は2日間で、翌日の1月2日に死亡したことになっているのに、本文中では、1月1日に死亡、と書かれていたり。もちろん翻訳の際のミスもある。回復しなかった、が、回復した、になっていたり(=これは致命的だ)、1月1日、1月2日、1月3日…と並んでいる日付が、1月1日、1月2日、2月3日、になってしまっていたり。こうやって山ほどチェックしていくと、本当に専門用語部分のミスというのはほとんど無いのだ。怪しいのは、専門用語ではない部分。だったら社内チェッカーでも直せると思いたいところだけれど、何しろ原文と一対一ではないので、やはり原文を読み込み、訳文を読み込んで情報を探しながらのチェックになる以上、チェッカーさんでは難しいだろうな、と思う。その上で、原文のミスがあれば、それを正しく直していかなければいけない。

今までのおうち仕事では、それこそ「学習初心者」のごとく、原文を読む時はちょっとおっかなびっくり、読んで解からないところがあれば、それは自分が実力が無いからだと思っていたし(=まぁ実際に実力は無いんだが…)、ベテランの翻訳者さんだったらきっとスラスラ読んで訳せるんだろう、自分が訳せないのは自分がヘタだからだ、と思って、原文のほうが間違えているとは(あまり)思わなかった。さすがに4月45日のようなミスはすぐに判るけれど。でも今回の作業で、意外といろいろなところに間違いがあるものなんだなぁというのが判った。どう読んでも、途中でフレーズが抜けていると思われるような文章があったり(=主語と述語が一致していないのである。間違って途中の数単語が削除されたような感じなのだ)。こういうのも、以前だったら自分の読み方がおかしいと思っただろうけれど、今は淡々と「ここはおそらく原文ミス」とマークをつけて作業を進めていく。かなり面倒な作業ではあるけれど、やはり今回の案件に参加させていただいてよかった。「原文のミスを指摘できる翻訳者」を目指したい(=例によって道は遠いが)。

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