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2007年9月22日 (土)

周辺知識

まだ通い始めたばかりだけれど、メディカルライティングのクラスでは本当に実践的なことを扱っている。新薬承認に向けての具体的なステップ、それぞれの意味、どのように申請書類を作っていくかなどを、全体像としてザックリ説明していただきながら、個々のポイントや生徒からの質問に具体的に答えてくださるので、退屈しているヒマがない。翻訳のクラスではないので翻訳スキルを教わるわけではないのだが、今まではムキになって語学スキルや翻訳スキルの構築に燃えた時期もあったけれど(笑)、それに比べて背景知識が足りなさ過ぎる私には必要なものだと思う。今はタイミング的にそういうものを集中的にインプットしたいと思うようになったので、ちょうどよいクラスにめぐり合えたという感じだ。

とにかくいちいち実践的で具体的。非臨床と前臨床の違い。単語は辞書をひけばすぐに判る(もちろん、non-clinicalとpre-clinical)。これがどう違うのか、どういうときにどちらを使うべきなのか。治験の中止・中断・脱落はそれぞれどう違ってどういう意味があるのか。動物実験で使う動物の数はどうやって決まっていると思う?と訊かれて、へっ?と答えあぐねていたら、そこに5匹いるから5匹で実験とか、10匹いるから10匹使って実験、とか思ってるでしょ?と先生に訊かれて、バカ正直に、ハイ、そうじゃないんですか?と思ってしまう私はド素人まるだし。白板にササっと計算式を書いて、こういう根拠でこの実験のためには○匹の動物が必要だから、と言われて、ひぇー!そんな意味が有ったのか、とか。治験審査委員会のメンバー構成と人数は?と訊かれて、そんなの決まってたんですか…?と思ったり(=ちゃんとICHやGCP文書を読んでいないことがバレバレ。必要なときに辞書のように必要箇所だけを読んでいるので…)。

知らなくても文章は訳せるけれど(動物実験の数なんて原稿に書いてある数値をそのまま訳文のほうにも書き写せば良いわけで、いちいち意味なんて考えたことはなかった)、そこにちゃんと意味があるということを知っているのと知らないのとでは、やはり気持ちの上で全然違ってくる。まだ翻訳の実務経験がないときにこのクラスを取っていたら、もしかしたら少しも興味が持てなかったかもしれない。経験が非常に浅いうちは目先のスキルに囚われるというか、「それっぽい翻訳文」が書けるようになりたい気持ちのほうが強かった。でも今は(=まぁ今も経験は浅いが)それっぽい翻訳文や、それっぽい文書の類はあちこちで山ほど目にしているわけで、少しずつ、そこに書いてある中身をちゃんと正確に理解できるようになりたいと思うのだ。そのために背景知識なり周辺知識なり、一見、翻訳には直接結びつかないようなことが必要になってきた。いや、必要うんぬんじゃなくて、とにかく授業が楽しい。

初回の授業で筆記用具を忘れてきた生徒さんがいて、私のペンケースをみた瞬間にそのことを思い出したらしく、すみません鉛筆貸してください…と言われて、あらあら、と思ったのだが、先日の授業で私はテキストやプリントを一式ごっそり忘れた…。人のことは言えない…まぁテキストは事務室で借りることが出来たけれど。このところ毎日ドタバタ泥縄の日々なので忘れ物が頻発しそうな気配。気をつけよう…。

今日のツボ:薬剤の剤型について特集している医学雑誌をパラパラ見ていたら、フと目が留まった記事があった。口腔内崩壊錠(口の中に入れると、すぐにホロホロっという感じに溶ける薬。唾液で崩れるように溶けて、水がなくても飲める)について書いてあったのだけれど、その表記が…口腔肉崩壊錠、と書かれていた…。こ、こわすぎる! 口に入れたら、口の中の肉が溶けちゃうんですか! ホラー映画も真っ青だ。

漢字変換ミスではなく(変換ミスというのは本来は正しく入力しているのに別の変換候補が選択されてしまうわけだから、つまり「こうくうない」という入力は正しくできているのに「口腔無い」などとなった場合が変換ミスだ)、おそらくは、手書きの原稿の「口腔内崩壊錠」という文字を見て、これを入力したパソコンオペレーターさんなどが、見た目で「内」という字を「肉」という字だと思ってしまったんじゃないかと思う。なんとなく医学っぽいし、医師は字が汚い人が多いというし(笑)。口腔内崩壊錠が何かを知らなくてもパソコン入力の仕事は出来るし、意味を知らなくても辞書をひけば訳語は判る。でもそれが何かを知らずに仕事をするというのはこういうことなんだよなぁ。私がこの言葉を知らずに「口腔肉崩壊錠」という誤字つき原稿を受け取っていたら、必死にググって無理やり言葉を作って(それこそ口の中の肉が溶ける錠剤、という単語を作っちゃうかも!)訳さないとも言い切れない。専門知識というよりも周辺知識(あるいは雑学的とも言えるかも)なので、つい後回しにしがちだけれど、実はそういう雑多な知識のあるなしというのは、自分で思っている以上に翻訳に与える影響が大きいだろうなぁと思わされてしまった。

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