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2007年8月 7日 (火)

あいみつ

新規プロジェクトの翻訳は基本的に「社内翻訳者」である私が担当することになるのだが、そうは言っても大量だったり急ぎだったりする場合には物量的に私ひとりの手には負えないので、当然ながら外部の翻訳エージェントさんに外注することになる。今までも複数の製薬会社で翻訳の仕事をしていたし、外注の窓口をしたこともあるけれど、個々のプロジェクトの中に入っていたわけではないので、どういう基準でエージェントさんを選んでいるのかなど、私には見えていない部分も多かった。今はプロジェクトの中にどっぷり浸かっているので、その辺が見えて非常に面白い。

製薬会社では並行していくつもの翻訳エージェントさんを使うのが普通だ。文房具を発注するときには、会社として取引する特定の文房具屋さんが1社決まっているものだし、海外出張のときにも手配をお願いする旅行代理店が普通は1社である。ところが翻訳に関しては複数の翻訳会社をを並行して使うわけで、これは、翻訳というシロモノの品質が(依頼原稿の内容によっても変わるので)一定ではないこと、訳者さんを指名でお願いしたくてもスケジュールが合わないことも考えられること、何よりも、大量生産できるものではないし(笑)、物量的な処理量に限界があって、例えば明日までに1000ページなどとなったら複数の訳者さんに分割しなけばならないワケで、その場合の質の確保が流動的なこと、などなど、いろいろあるとは思う。

では、どの翻訳会社に依頼するのかをどんな判断基準で決めるのか。今まではあまり考えたことも意識したことも無かった。今回、どこに依頼するのかを決めるに当たって、部長(=オサイフを握っている最終判断者)や、他のプロジェクトで翻訳会社とやり取りをしている社員さんに伺ったところ、どうもプロジェクトごとにエージェントさんが違う。つまり、偶然にも「1プロジェクト=1エージェント」制になっている。これは、プロジェクトがスタートするときに複数の翻訳エージェントさんにトライアルをお願いして(=つまりコンペである)、勝ち抜いたエージェントさんには自然にプロジェクト終了まで継続してお願いする形になっているようなのだ。製薬会社の新薬プロジェクトといったら、短くても5年、普通は10年単位である。最初のコンペで、その後10年に亘る外注依頼先が決定するとは…初回コンペの責任重大だ! 今までは、私が「おうち仕事」で翻訳を請ける場合に、コンペです、と言われても、大型案件のお仕事を1つ取るかどうかのコンペなのだと思っていた。その後に何年にも亘る受注が掛かっていることなど考えたこともなかった。「おうち仕事」翻訳者としてはまだまだ認識が甘いな。

とにかく「会社仕事」のほうでは、私は翻訳会社を選ぶ側である。どこにコンペをお願いするのかは、プロジェクト担当者の好み(!)のようなので、私も複数の翻訳会社にトライアルと見積もりをお願いした。もちろん相見積もりであることはお知らせした。いただいた見積もりを見て、うわー1ページあたりこんな高い金額なのか…(=そのうち翻訳者がもらえる金額と言ったら…なんだかガックリ…)と思ったり(笑)、エージェントの営業さんからの納期交渉では、訳者さんの厳しい事情も痛いほど判るので、ついついデッドラインを延ばすことを承知したり。

そして上がってきたトライアルを見て、唸ってしまった。当然ながらどれもそれなりに上手である。各エージェントさんの工夫や意気込みが感じられる。あいみつであることをお知らせしてあるため、どこも必死なのだろうし、気合いが伝わってくる。特に1社は営業さんの対応が素晴らしく秀逸で、今までに私がやり取りをした事のある翻訳会社の中でも断トツであった。この営業さんの対応だけで、かなり心が動き、その会社にしようかと思ったくらいだ。が、トライアルの訳稿をみたら…別のエージェントさんのほうが上手だった。見積もり金額、納期、営業さんの対応など、判断に影響する要素はいろいろあるけれど、当たり前のことだが決めてはやはり翻訳の質である。部長とも相談の上、翻訳の質が一番良かったところに決めた。

どの訳文もそれなりのレベルには達しているし、みんな上手だった。あとは、ちょっとした細かい部分をどれだけ丁寧に訳しているか、訳文としてこなれているか、業界のスタンダードを熟知しているか(訳語の選び方でその辺が判ってしまう)など、小さな差が大きな印象の違いになってくる。そして、その小さな差が、今後数年間に亘るプロジェクトの外注先を決定してしまうのだ。トライアル(コンペ)を依頼された場合の翻訳者の責任は本当に重大だ。そういうコンペ案件を引き受けられるようになりたい…とひそかに思う私だった。

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