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2007年7月 3日 (火)

コンサバ

新規プロジェクトでの翻訳業務は用語集作りも重要な仕事のひとつになる。私自身が自分で使うためのものではなく、プロジェクト全体で使う用語をそろえるために、訳語を規定していかなければならない。スタイルガイドも同様で、「または」とか「および」を漢字にするか平仮名にするかに始まって、臨床試験第1相と第Ⅰ相はどちらにするか、「臨床試験」を使うか「治験」を使うかなど、「どっちでもいいけど、どっちかにそろえなきゃ」というようなものが山ほどある。厚労省のサイトの新薬申請ページを見て、最新の各社の申請書類をチェックして、まだ「第Ⅰ相」が主流だね、とか、患者数は「○人」ではなく、「○例」で統一しているほうが多いからそっちで行こう、などとひとつひとつ確認していく。上司いわく、「なるべくコンサバに。なるべく多数派に合わせて」という。うーん。正直、個人的にはそういうのは好きじゃない。

数年後にこのプロジェクトを申請するときには、世界の流れに合わせて、きっと臨床試験は「第1相」になっているし、患者を「○例」と表記するのは人権侵害という欧米の流れに合わせて、きっと「○人」になっている。でも、今の厚労省の書類の大半はこうなっているから、と上司は言う。だから…。それじゃ悪しき慣例は何も変わらないんだってば。メディカルライティング講座で言われた、「クライアントの本当に望むスタイルで書く」という言葉がなんだか揺らぐ。現場では結局は冒険を怖がる。これじゃいつまで経っても、「A, B, and/or C」を、「A、B、及び/又はC」と訳すことになり、読みづらい日本語がそのまま横行してしまう(=私が訳すときは、当然、「A、B、Cは~」と訳してしまう。「及び/又は」などという日本語は存在しないと思っているから)。でも私の好みを言ったって何もならない。コンサバで、と言われればそれに従うしかない。ここで決定した表記を、これから何年間にわたるプロジェクト全体で使っていくのだから、私みたいな下っ端の好みで決められるものではない(笑)。

プロジェクト全員が同じ用語にそろえていくための環境作りとして、用語集をどのように参照するのかについても上司といろいろ相談。当然ながら私のほうがアレコレと周辺ツールには詳しいので、ひとつひとつ、上司に実物を見せて使い勝手を説明しながら特長やら機能やらを紹介していく。その結果、上司が気に入ったのはDDWinだった(笑)。こりゃ私の好みがかなり反映しているかもしれない…。私がDDWin好きなので。PDicとかなり競い合ったのだけれど、他の人は新しい用語を追加することは原則しない、新しい用語の追加はすべて私が窓口として定期的に一貫して行なう、統一用語集をひとつの辞書としてDDWinに加える、ということになった。つまり、DDWin用に統一用語集を一冊のEPWing形式ファイルとして作成することになる。

当然、和訳も規定していかなければならない。こちらについては、和訳が存在しないものが多々あるので、それもひとつひとつ、上司と確認して、どの訳語を使っていくかを決めていく。これから日本ではこの呼び方がスタンダードになるかもしれない訳語を決定していくのかと思うと、ちょっとワクワクする(笑)。最新の医学論文などを訳しているベテランの翻訳者さんなら、自分が決めた訳語が日本の医学会でこれからスタンダードになっていくという翻訳の醍醐味を味わうことなど日常茶飯事かもしれないが、ぺーぺーの私にとっては、自分ひとりではまだ到底そんな楽しみを味わうことなどできない。こういうところは、製薬企業勤めをしていなければ味わえないことだろうなぁと思う。

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コメント

お久しぶりです。
最近のお仕事振りの内容、ほんとに興味深く読ませていただいています。「コンサバ」。いかにコンサバに近づくかに神経を尖らせて翻訳をしていますので、snowberryさんの視点を新鮮に感じました。今後、いわゆる医薬業界のみの言い回しのようなものは淘汰されていくのかもしれませんね。
また辞書ツールのようなものも、使い勝手のあれこれが分からず非生産的なことをしているのかもなぁとわが身を振り返って反省です。

投稿: 上海リル | 2007年7月 4日 (水) 20:29

上海リルさん、こんにちは。レス遅くなってスミマセン。もともと閑散としてるブログですが本人が放ったらかしちゃっています。。。

>いかにコンサバに近づくかに神経を尖らせて翻訳をしています

そこがツライところですよねぇ。私もこの分野の翻訳を始めた頃は、とにかく右に倣えで、ひたすらコンサバに訳すものだと思っていたのですけれど、それって読みづらいじゃないですか。日本語なのか漢語なのか判らないような訳文で、訳した日本語を誰かに噛み砕いて訳して欲しくなるような(笑)。翻訳ということは別にして、訳しあがった文章を読んだときに、「げっ、こんな悪文、絶対に自分では書きたくない」って思うんです。それなのに、翻訳になると何故か悪文のオンパレードをつむいでいる私。それがとてもイヤなのです。でも社内資料の翻訳であれば、私の好みで訳せますが、エージェントさんに納品するものは、やっぱり怖くてコンサバに持っていくしかないんですよね。そしてそれを、おそらく社内チェッカーさんがバシバシ直して読みやすい日本語にしているのだろうと思うと…。どこかで断ち切りたい不毛なループなのですが、これ、本当に根深くて難しいです。

私がもう少しプロジェクトに具体的に関わるようになったら、上司をそそのかしてコンサバ撤回をさせたいと目論んでいるのですが。果たしてうまくいくかどうか(笑)。

投稿: snowberry | 2007年7月 7日 (土) 02:43

「紺鯖」?
青魚のさらに青いヤツ?
なんとなくシマアジとかと同系列?

あ~、コンサバ食いてぇ。

投稿: あるふぁ | 2007年7月 7日 (土) 03:31

あるふぁ氏、
>なんとなくシマアジとかと同系列?

…いや、あの、良いんだけどさ…(笑)。コンサバで「サヴァ? サヴァヴィア~ン」という反応は予想していたけど、紺鯖と来たか…。うーむ、あなどれん。それこそコンサバではない反応(笑)。

なるべく週に5日お魚(お肴ではない!)計画は頑張って続けております。今日(昨日だけど)のランチは華麗なるカレイでした♪(=フレンチだからね、カレイのフリッターだったのだ)

投稿: snowberry | 2007年7月 7日 (土) 03:44

はじめまして。
mixiの翻訳コミュからたどってこちらにお邪魔しました。
在宅翻訳者のおにおにと申します。
医薬・映像・金融・特許以外は対応可能という、何でも屋チックな仕事をしています。
お仕事のお話、興味深く読ませていただきました。

「及び/又は」などという日本語は存在しない

まったくその通りですね。
でも、クライアントの仕様に併せて、今日も「Aおよび/またはB」という訳文を書いてしまいました。
これを「普通」だと思わないよう、日本語の感覚を鈍らせてはいけないな、と思いました。

また寄らせてもらいますね~

投稿: おにおに | 2007年7月24日 (火) 02:11

おにおにさん、
こんにちは、こんな辺鄙なところまで遠征していただき恐縮です。

>医薬・映像・金融・特許以外は対応可能という、何でも屋チックな仕事をしています。

ジェネラリストというヤツですね! 何が来るか判らないので幅広い知識と、何にでも取り組める好奇心が必要だとうかがっています。ぐーたらでフットワークの悪い私には出来ません~。

>クライアントの仕様に併せて、

そうなんです(涙)。そこがツライところですね。そういうものばかりやっていると、本当にそういう文章に埋没してしまいそうで、「マトモな日本語」を見失いそうになります。そうならないように精進したいですね。

ところで私もナイトメアビフォアクリスマス大好きです! ハロウィンが近づくと観てしまい、クリスマスが近づくと観てしまいます♪

投稿: snowberry | 2007年7月24日 (火) 03:28

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