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2006年8月 9日 (水)

表現語彙

先日のトライアル結果で、表現力がどうも今ひとつだったことが何だか少し悔しい。日本語にしても英語にしても、良質な文章にたくさん触れなければ翻訳の表現力を磨くことは出来ないだろうし、たくさん触れていたとしても、実践でたくさん訳さなければ自分自身の表現力は育たない。そういえば英検の勉強のときにも同じようなことを言われたっけなぁ。単語帳で覚えた認識語彙は、読解などで目にしたときに意味をつかむことが出来るけれど、自分が話したり書いたりするときには正しく使えない。自分で使いこなせる表現語彙を少しずつ増やすことで本物の英語力が身につく。翻訳も同じで、私にはまだまだインプットもアウトプットも足りていないことは充分に判っているけれど、いざこうやって表現力が足りない現実を突きつけられると、ありゃりゃ~と思う。

私が初めて本格的に医学翻訳を学んだ翻訳学校の先生は、逐語訳を非常に嫌っていらっしゃった。長くこの分野にいると、医学用語や専門的な表現が当たり前になって何の疑問も抱かなくなるものだが、医学を知らない人が読んでも違和感無く読めるような、できるだけ一般的な日本語、ごく普通の表現、自然な文章にすることを心がけて欲しい、と繰り返し何度も聞かされた。もちろん仕事となればクライアントの好みや業界の暗黙のルールがある。でも最初からそれに倣うのではなく、まず自分の翻訳した文章を自分自身がきちんと理解できるように、「普通の日本語での表現」ができることが前提であり、その上で、クライアントさんの好みに持っていけばよい、というのが先生のお考えだった。医者や専門家にしか通じないような隠語(=医学用語)の羅列ではなく、当たり前の日本語で、誰が読んでも誤解なく内容がしっかりと判る翻訳、それを目指しなさいとのことだった。英語の医学論文を和訳したら、日本語ではなく漢語になっているような翻訳はしないように、と。私は首を縦にぶんぶん振って大いに共感したものだ。だって訳した日本語を読んでも、漢字だらけで何を言っているのか自分でも判らなかったんだもの。病名もヒトの体の器官名もロクに判っていないのだから当たり前といえば当たり前なのだが。

先日エージェントさんに納品した和訳について、エンドクライアントさんから質問があったとのことで問い合わせがあった。臨床試験部分の言葉が難しくて判りづらいというのである。えーと、そう言われても、言い代えようが無いんだよね・・・。臨床試験に関する用語には専門用語がすっかり定着していて、他の言葉に置き代えられないものが多いけれど、でも確かに、これを初めて耳にしたらどれだけの人がパっと意味が判るだろうというものばかりなのも事実。偽薬対照だの二重盲検だの奏効率だの無増悪期間だの、日常生活には出てこない言葉ばかりなので仕方ない。でも言い代えて欲しいと言われても、こちらもハタと困ってしまう。これ以外に表現語彙を持ち合わせておりませぬ~、すみませぬ~、という感じ。今回はエンドクライアントさんが製薬企業ではないようだったし、訳文の読者対象はどうやら一般消費者らしいので、できるだけ難しい言葉を使いたくなかったらしい。

定着した用語を別の表現にするというのは思いのほか大変だった。どうしても冗長な説明口調になってしまう。結局、オプション的にいくつか異なる表現を提示して逃げてしまった。こういうところが、私の表現力の無さということか、はぁぁ。でも、「○○が顕著に××した」という部分で、「顕著に××」が難しくて判りづらい、と言われたのにはびっくり。顕著って普通の日本語だと思うんですが。××っていうのも、言葉はちょっと硬いけれど(=漢語的)、漢字を見れば意味は一目瞭然なわけで。「○○を大幅に××することができました」のような表現に代えてはみたけれど。。。これも翻訳の仕事なのかなぁ、日本語を日本語に訳す?(笑)。でも表現力、語彙力を試されているような気がしてちょっとスリリングでもあった。

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コメント

治験関連の用語用例集が出ています。

とあるところに置き忘れてきたので、またわかれば紹介します。

専門家にしかわからない難解な文と、説明を加えた文の2つを併記しているものです。

多少説明口調だなあと思いますが、発想には役立つと思います。2500円くらいでした。

ただ、問題があって、原稿用紙枚数換算での納品だと、後からの訂正の場合、追加料金をもらわないと損です。

投稿: 再び流れ戻り~ | 2006年8月12日 (土) 05:20

>専門家にしかわからない難解な文と、説明を加えた文の2つを併記しているものです。

おお、それは非常にありがたいですね! そもそも名詞って他の言葉で表現しづらいんですよね~。これが動詞や形容詞であれば、まだ言い代えようがあるんですが、名詞だとどうしようもなくって。私の場合、語彙力が少ないのは元から承知なのですが、名詞って語彙力勝負のところがあるし・・・。表現力が増えないのはいたし方ないのでしょうか。。。

↓この本でしょうか? なんか良さそう・・・。
http://item.rakuten.co.jp/book/1658429/

>原稿用紙枚数換算での納品だと、後からの訂正の場合、追加料金をもらわないと損です。

あ、それスゴク判ります。今回、後から依頼されて平易な表現に言い直したほうが、すごく字数が増えましたから(笑)。

週末は半夏バテ手前状態?で文章構築能力が無かったので(=まぁ普段からロクに無いんですけど)コメントのお返事も遅くなってしまってすみません。また流れてきてくださいませ♪

投稿: snowberry | 2006年8月14日 (月) 17:49

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