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2006年4月 7日 (金)

休み無し

私が英検を卒業して少ししたころ、英語学校の恩師が、プライベートな友人(バリバリの医薬翻訳者さん)を紹介してくださった。私自身はようやく自分でも英語の基礎力を身につけたぞと思えるようになって、医学翻訳の学校に通っていたときだった(英検をクリアするまでは翻訳の勉強をする気になれなかったのだ)。ナマの医薬翻訳者さんを紹介していただけるというのでもちろん私は舞い上がった。それまでもずっと医療業界にいたので、社内で翻訳している人は何人も知っていたが、フリーランスの在宅翻訳者とお目に掛かったことが無かったのだ(そもそも、そういう方は会社に所属していないのだし、知り合いようがないではないか)。紹介していただいた医薬翻訳者のFさんは、某有名国立大学の薬学部を卒業し、製薬企業の研究室で研究職に就かれた後、翻訳者として独立なさったという「正統派」医薬翻訳者である。何を以って「正統派」なのか良く判らないけれど(笑)、多分こういう方を「正統派」というのだろうなぁと思うのでそう書いておく。私なんぞは亜流の異流の邪道かもしれないが。まぁ道はそれぞれ。

Fさんはまさに正統派という感じである。ネットでお名前をググると、いくつもの翻訳学校などのインタビュー記事がザクザク出てくる。どのようにして翻訳者になったか、日ごろどのように仕事をしているか、どんな勉強を継続しているか、などを初心者向けに語ってくださっている。でもこれ、絶対に学校側の編集が入っているよねぇ。内容もごく当たり前のことしか書かれていない(当然である、核心部分は入学してから学校が教えるのだから。いや、教えてくれればまだマシで、実際には何も教えてもらえないというか、自分で探さなきゃ意味はないのだ)。私がお会いしたときのFさんの言動は手厳しかった。もちろんそれが当たり前なのだが。お目にかかった途端、挨拶もそこそこに、「で、何をお話すれば良いんですか?」と訊かれた。そりゃそうだ、お仕事の合間の貴重なお休みの日にわざわざ時間を割いていただいたのだ、漠然と「どうすれば翻訳者になれるんですかぁ~?」とアホ面をさらして無意味な質問をするのは失礼だ。私は用意してきた具体的な質問を次々とお伺いした。小気味よくスパスパと返事が返ってきた。ただ、やはり、薬学部ご出身(しかも研究室ご出身)ということで、文系の人間(=理系の素養ゼロ=私)にオススメの方法というのは示しようがないらしかった。私も、スタート地点が大きく異なる人と同じことはできないのは百も承知、その部分をお伺いしても無意味なことくらいは判っているので、他の部分をいろいろと質問させていただいた。

その中で特に印象深かったのは、「翻訳者として仕事を始めて3年間は一日も休みが無かった」という言葉だった。仕事を軌道に乗せるまで選り好みなんかできる立場ではなかったし、ひたすら仕事をこなし合間に勉強を続けながら頑張った、それくらいの覚悟がなければ独立しようなんて思わないほうが良い、と言われた。バックグラウンドがあって、研究室でも翻訳をなさっていたFさんは独立しても充分にやっていけるという自信も確信もおありだったのだろうと思う。二束の草鞋を履くことなく、会社勤めをお辞めになってすぐに翻訳者としてお仕事をなさっている。それでも最初の3年間は一日も休まなかったというのだ。ぐーたらな私の豆腐のような覚悟は、それを聞いてどひゃー!と怯んだが、豆腐なだけに、どうせもともとフニャフニャの覚悟なのである。よく言えば柔軟性に富むとも言う(笑)。怯んでもすぐに元に戻る。3年も休みナシなんて私には不可能だぁぁぁぁ。3ヶ月だってアヤシイ。そういう人もいるわね、と思うことにして、私は自分の出来る範囲で二束の草鞋をしながら少しずつ移行していけば良いんじゃないか、、、とぼんやり思ったのだ。そして今、私は実際に出来る範囲で少しずつ移行しつつあるのだ。でも休みナシはやっぱり不可能だと思う・・・。

もう一つ印象深かったのは翻訳量である。当時の私の翻訳量は一日最大で英文和訳で原文2000ワードだった。今の私の翻訳量はこれくらいなのですが、これだと、プロとしてやっていくにはどうでしょうか?と伺ったら、はー2000ですか、そりゃ私の午前中の仕事量ですね、とアッサリ言われてしまった。ってことは、、、えーと、午前2000、午後4~5000くらい訳すんだろうか。。。ってことは1日6~7000ワードくらい・・・。これまた、どひゃー!と思った。「だって1日2000ワードじゃ食っていけないですよ」とこれまたアッサリ言われた。翻訳業で生活していくためには、どれくらい訳して、どれくらいの時間を仕事に費やして、どれくらい稼がなければならないのかということが非常に漠然としていたので、こういう具体的なお話を伺えたことはとても有り難かった。でも当時の私は、まだ何も具体的に実感することは出来なかった。今、少しずつ自分で実際に翻訳エージェントさんからお仕事をいただくようになって、当時のFさんのお話を反芻しながら、その意味を一つ一つ実感しつつある。道は長いけれど歩いていれば少しは前に進んでいくのだ。

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コメント

ひょ~!3年間休みなしとはすごい集中力!
きっと私なんかは途中で「チッ!やってられるか!」となり、モチベーションが下がってしまうので結局効率悪いことに
なりそう。

「ダラダラしてる分、集中できたらどんなに効率いいだろうなー」と思うけど、長く続けることなら自分のペースを崩さないことも大切だねぇ。(ということでちんたら進む私。)

投稿: マダムB | 2006年4月 9日 (日) 18:45

>長く続けることなら自分のペースを崩さないことも大切だねぇ。

やっぱりそう思うよね! この方(Fさん。当時40代後半、おそらく今は50歳くらい))、とにかくスゴイ方だったので私には到底同じマネは出来ないなーと思うのよ。まぁマネするだけがすべてじゃないし、人それぞれなのだから、お話を伺って参考にしつつ、出来ることは取り入れて、出来ないことは自分なりのやり方で進めば良いと思っておりまする。

スポ根ものっていうのかなぁ、一昔前はとにかくツベコベ言わずに根性で頑張ることが美徳とされていた気がするけれど、それだけが正しいとも限らないだろうに・・・と、ぐーたら流の私は根性が無くても歩ける道を探しています(笑)。

投稿: snowberry | 2006年4月 9日 (日) 20:00

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